3. 原因帰属と社会的推論
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1. 原因帰属とは何か
現象の原因を何らかの要因に帰すること
人は身の回りに起こる現象や他者の行動に対して、頻繁に原因帰属を行っている
1-1. 原因帰属の理論
原因帰属の重要性を指摘し、初めて理論的な考察を加えた
素朴心理学を重視する立場から、一般の人々が人間や社会をどう捉えているかを知り、それを科学的な用語に翻訳する必要があると考えていた 他者の言動を観察した時、それがその人の内的な属性によるものだと推論される条件を考察した
こうして始まった帰属研究は、対応推論理論や共変モデルなどが登場するに至り、社会心理学の主要な領域として脚光を浴びるようになっていく ハイダーによる初期の理論的考察を受け継ぐもので、対人認知場面での原因帰属についての理論を受け継ぐもの
他者の言動を観察した時、観察者はそこから行為者の意図を推測し、さらにその背後にある安定的な内的属性を推測しようとする
たとえば親切な行為から親切な性格を推論すること
ある行動とその行為者の内的属性とを結びつける際、その結びつきの必然性の程度を示す
対応性の低い行為: 内的属性と結びつきにくい
外的に強制された行為や役割期待に基づいてとられた行為など
社会的規範に沿った望ましい行為
多くの人が進んで行う行為であるため、特定個人との対応性が低いとみなされ、そのままポジティブな内的属性に結びつくことは少ない
対応性の高い行為
規範にそぐわない行為(e.g. 子どもに暴力を振るう)は対応性が高いとみなされ、行為者のネガティブな内的属性に帰属される
対応推論理論が対人認知場面の原因帰属に限定した理論であったのに対し、共変モデルは内的属性の推論に限らない、より一般的な因果推論の法則を説明するモデルとして提案された
ある結果の原因はそれと共変する要因に帰属されるという共変原理が前提とされ、原因は行為の主体(人)、行為の対象(実体)、状況(時・様態)のいずれかに帰属されるとする
共変
ある現象が起こるときはそれが存在し、起こらないときには存在しない
共変性に関わる情報
合意性
「ある人の対象に対する反応が他の人々と一致しているかどうか」を検討する次元
弁別性
「ある人のその反応は当該の対象に限って起こるのかどうか」を検討する次元
一貫性
「ある人のある対象に対する反応はどのような状況でも変わらないかどうか」を検討する次元
共変モデルによれば、私達はこれら3次元に相当する情報を得て、それぞれが結果と共変するかを検討すれば、結果をもたらした原因を特定することができる
このモデルによれば、行動の原因が内的要因に求められるのは、合意性と弁別性が低いのに一貫性だけが高い場合
1-2. 原因帰属のあるべき姿と現実の姿
前述の2つのモデルは、いずれも原因帰属に関する規範モデルと考えられている
これらのモデルが、私達が実際に行っている原因帰属の"ありのままの姿"ではなく"あるべき姿"を記述しているから
これらのモデルで想定されている原因帰属を実行するには
第一に、必要な情報がすべて手元に揃っていることが前提とされる
第二に、仮に十分な情報が揃っていたとしても、人間は常に合理的な因果推論をするわけではないということ
2. 原因帰属に伴うエラーとバイアス
2-1. 基本的な帰属のエラー(対応バイアス)
他者の行動の原因を考える際、その行為者の内的属性(性格、態度など)を重視しすぎる傾向
対応推論理論によれば、行為者の言動から、その内容と対応した内的属性が推測されるのは、その言動が外的成約のない状況でなされた場合に限られるはず
しかし、外的な圧力がかかっていることが誰の目にも明らかな場合でさえ、人はその行動の原因を性格や態度など、内的属性に帰属する傾向があることが示されてる
実験設定
カストロを支持するものと支持しないものの2種類
それぞれのエッセイのうち半数は書き手が自由に立場を選択して執筆したもの、残りの半数ははじめからどちらの立場のエッセイを書くかが決められた上で執筆されたものと伝えられた
後者の条件では、対応推論理論ではエッセイに表面された立場と書き手のカストロに対する態度とは対応性が低いと判断されるはず
結果は、エッセイの内容を自由に選択できた条件だけでなく、はじめから各内容が決められていた条件においても、書き手はエッセイの内容に沿う方向の態度を持っていると推測された
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基本的な帰属のエラーと呼ばれるのは、これが人間にとって本質的で普遍的な帰属の誤りだから
基本的な帰属のエラーが生じる背景には、様々な要因が考えられる
その1つに行為者が状況に比べて目立ちやすいことが挙げられる
一般に知覚的に目立ちやすいものは、選択的な注意を受けやすく、重要な情報とみなされやすい
また、他者の内的属性を知ることは、その人の将来の行動を予測することに繋がり、類似した状況が起きた際に適切な対処がしやすいために、内的属性の帰属が偏重されるという考えもある
さらに他者の行動を観察した際にはまず内的属性の帰属が行われ、そのあとで状況要因を考慮した帰属が行われるという情報処理を仮定したモデルも提案されている(Gilbert, 1989) この場合、第1段階の内的属性の帰属は情報処理の負荷が低いのに対し、その後の段階はより負荷の大きい情報処理が求められるため、しばしば最初の段階で情報処理が集結してしまい、結果的に状況要因が考慮されないのだと考えられる
2-2. 自己に関する原因帰属のバイアス
基本的な帰属のエラーは、行為者が他者であった場合
自分が行為者であった場合には、反対方向のバイアスが見られることが知られている
行為者が自分自身である場合、原因は自身の内的属性よりむしろ、状況や他者に帰属されがち
ただしこの行為者-観察者バイアスにもさらに例外がある
成功は内的属性(能力、努力)に帰属される傾向がある
一方、失敗は外的属性に帰属されやすい
このバイアスが生じるのは動機的な理由によるところが大きい
人は常に自尊感情を維持・高揚するように動機づけられているため、成功を能力や努力(内的属性)、失敗を状況(外的属性)に帰属することで、それを達成しようとしているのだと考えられる
しかし自己に関する帰属のエラーやバイアスがすべて動機に由来するわけではなく、行為者-観察者バイアスについては、認知的理由による説明のほうが有力視されている
行為者にとっては、自分自身よりも自分を取り巻く周囲の状況の方に注意が向きがちなのに対し、観察者にとっては、行為の主体の方が目立ちやすく注意が向きやすい
つまり、両者ともが自分にとって目につきやすいものに原因を帰属すると、必然的に行為者-観察者間でズレが生じてしまう
また行為者は、その行為に伴う感情や、行為の直接的な原因、自分自身の過去の行動など、原因帰属に利用可能な情報を数多く保有しているが、観察者が保有する情報は相対的に少ないため、両者の原因帰属にズレが生じるとも考えられている
2-3. 誤帰属
自己の帰属に関するエラーは、行為者自身がそもそも自分の言動の源泉や内的状況の変化についてよく知らないために生じるのだという考えもある
人間が内的な心理状態のすべてに常にアクセスできるわけではないことは多くの研究で実証されている
人間は少なくとも部分的には、他者に対するのと同じように、自分自身の行動やその時の周辺環境の観察から、自分自身の内的状態について推論をする
実際、私達が自分の行動や内的変化の原因を述べる際、その内容は現実の状態を反映しているというよりは、既存の知識や因果関係に関する暗黙の理論に基づいたものを答えていることも多い(Nisbett & Wilson, 1977) 真の原因でない要因に誤って原因を帰属すること
自己の内的状態に変化をもたらした原因がわからないにもかかわらず、もっともらしい原因を周辺環境から見出してしまうという私達の推論傾向に由来
ただし、誤って帰属される原因はもっともらしいものでなくてはならないため、つり橋の上であれば、どのような異性に対しても好意を持つということではない
多角形や未知の外国語の文字は、本来は中性的(ニュートラル)な刺激で、それに対して特に好きとか嫌いといった態度を持ち合わせるものではない
しかし繰り返し見せられると、その刺激に対する好意が増すことが知られている(→8. 対人関係) 同じ刺激を繰り返し見ると、初めて見たときに比べ、その刺激に対する知覚的な情報処理が簡略化され、それは主観的には処理が容易だという感覚として経験される
しかし参加者には、同じ刺激を繰り返し見ているという自覚がないため、より手近な原因として、情報処理の流暢さを好意に帰属するのだと考えられている
真の原因に注意を向ける操作を行うと、誤帰属が消えたり、効果が弱まったりすることが知られている
3. 社会的推論
3-1. ヒューリスティック
他者や自分、それを含む社会に関して私達が行う推論の総称
社会的推論に基づく判断
ここまで述べてきた原因帰属や対人認知も社会的推論(もしくは社会的判断)の一部だということができる
あらゆる社会的推論に共通して言えるのは、他者や社会について考えるとき、人間は入手可能な情報をすべて詳細に吟味するわけでも、それをもとに合理的な推論や判断をするわけでもないということ
それとは反対に、確実に正答にたどり着ける保証はないがだいたいはうまく物事を解決することができる方略や、直感的で解決への道のりが早い方略を、私達は好んで利用している
ある事例が特定のカテゴリーをよく代表する典型的な事例と認識される場合、その事例が当該のカテゴリーに属する可能性を高く推定する認知方略
どれだけの実例をすぐに思い浮かべることができるかを基準として、その事柄の生起頻度を推定する認知方略
前もって与えられた値や、最初に直感的に推測した値を手がかりにしてまず判断を行い、その後、最終的な判断を下すために調整を行うという認知方略
最初に設定した値は、それが何の根拠もない値であっても係留点の役割を果たすため、その後の調整が不十分だと、最終判断は当初の値に引きずられる
このヒューリスティックによって生じた効果は、アンカー効果と呼ばれることもある 3-2. 錯誤相関
集団成員の数に差はあるが、比率は2つの集団で同じ
集団A: 成員数は26人, 18人は望ましい行動を、8人は望ましくない行動
集団B: 成員数は13人, 9人は望ましい行動、4人は望ましくない行動
結果
実験参加者による各集団の印象は、集団Bより集団Aのほうが良いものだった
望ましい行動と望ましくない行動の頻度を推定させると、集団Aに対してはほぼ正確な頻度が推定されたが、集団Bでは望ましくない行動の頻度が過大視されていた
少数派集団と望ましくない行動は生起頻度が相対的に低く、そのため目立ちやすい
目立ちやすい人と行動が組み合わさり、さらに注意をひくものとなったために、集団Bでは望ましくないは望ましくない行動をする成員が多いという誤った関連づけが生じたのだと考えられる